バイオマスとは生物由来の再生可能な資源
地球温暖化や廃棄物問題が深刻化する中、環境に配慮した新しいエネルギー源として注目されているのがバイオマスです。
バイオマスは生物資源を活用した再生可能なエネルギーとして、化石燃料に代わる選択肢になりうるのでしょうか。
本記事では、バイオマスの基本的な意味から種類、特徴、活用方法、そして今後の課題まで詳しく解説していきます。
バイオマスの定義と意味
バイオマスとは、生物資源(bio)の量(mass)を表す概念から生まれた言葉で、「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」を意味します。
具体的には、木材や生ごみ、家畜の排泄物、稲わらなど、動植物から生まれた資源全般を指しています。
太陽エネルギーを使って、水と二酸化炭素から生物が光合成によって生成した有機物であり、生命と太陽エネルギーがある限り持続的に再生することが可能な資源です。
石油や石炭といった化石資源も、元をたどれば動物性プランクトンや植物が由来ですが、地中で長い時間をかけて形成されたものであり、再生可能とは言えません。
このため、バイオマスの定義からは除外されます。
バイオマスは資源として、エネルギー利用だけでなく、肥料や飼料、建築資材など、幅広い分野で活用されているのが特徴です。
バイオマスと化石燃料の違い
バイオマスと化石燃料の最も大きな違いは、資源の再生可能性にあります。
石油や石炭などの化石燃料は、一度採掘すれば枯渇する有限な資源ですが、バイオマスは太陽と水と二酸化炭素があれば、植物の成長によって持続的に生み出すことができます。
もう一つの大きな違いは、二酸化炭素の排出に関する考え方です。
化石燃料を燃焼させると、地中に長期間貯蔵されていた炭素が二酸化炭素として大気中に放出され、地球温暖化の要因となってしまいます。
一方、バイオマスを燃焼させた際に放出される二酸化炭素は、植物が成長過程で光合成により大気中から吸収した二酸化炭素であるため、全体として見れば大気中の二酸化炭素濃度に影響を与えない「カーボンニュートラル」な特性を持っています。
ただし、バイオマスの収集、運搬、加工の際に化石燃料を使用すれば、その分の二酸化炭素は排出されるため、厳密には完全なカーボンニュートラルとは言えないケースもあることに注意が必要でしょう。
バイオマスの種類は大きく3つに分類される
バイオマスは、その発生源や状態によって大きく3つのカテゴリーに分類されます。
それぞれの種類には異なる特徴があり、適した活用方法も変わってきます。
ここでは、廃棄物系、未利用系、資源作物系という3つの分類について、具体例を交えながら解説しましょう。
廃棄物系バイオマス
廃棄物系バイオマスは、日常生活や産業活動の中で廃棄物として発生するバイオマスのことを指します。
具体的には、食品廃棄物、家畜排泄物、下水汚泥、廃食用油、建設発生木材、製材工場の残材、パルプ工場から排出される黒液などが該当します。
これらは本来廃棄物として処理されるべきものですが、バイオマス資源として有効活用することで、廃棄物の削減と同時にエネルギーや製品の生産が可能となります。
廃棄物系バイオマスの最大の利点は、すでに発生している廃棄物を資源として再利用できることにあります。
廃棄物処理にかかるコストを削減できるだけでなく、環境負荷の低減にも貢献するのです。
ただし、異物の混入や品質のばらつきなど、処理プロセスが複雑になる場合もあることが課題として挙げられるでしょう。
未利用系バイオマス
未利用系バイオマスとは、これまで有効に活用されてこなかったバイオマス資源のことです。
代表的なものとして、林地残材、稲わら、もみ殻、麦わらなどが挙げられます。
林地残材は、森林の間伐作業などで発生する枝や葉、小径木などで、従来は山に放置されることが多かった資源です。
農業分野で発生する稲わらやもみ殻なども、一部は田畑にすき込まれたり焼却されたりしていましたが、その多くは十分に活用されていませんでした。
これらの未利用系バイオマスは、収集や運搬にコストがかかることが普及の障壁となっています。
しかし近年では、地域の特性を活かした効率的な収集システムの構築や、小規模分散型の利活用施設の整備などが進められ、徐々に活用が広がりつつあります。
未利用系バイオマスの活用は、森林整備の促進や農山村地域の活性化にもつながると期待されているのです。
資源作物系バイオマス
資源作物系バイオマスは、廃棄物系や未利用系とは異なり、最初からバイオマスとして利用することを目的に栽培・培養された作物を指します。
具体的には、サトウキビなどの糖質資源、トウモロコシなどのでんぷん資源、なたねなどの油脂資源、さらには柳やポプラといった成長の早い樹木などがあります。
これらの資源作物は、燃料や肥料として利用されるだけでなく、バイオプラスチックの原料としても注目されています。
資源作物系バイオマスの利点は、計画的な生産が可能で、品質が安定していることです。
ただし、食料生産との競合や、栽培に必要な農地の確保、栽培コストなどが課題となります。
また、資源作物の栽培に化石燃料由来の肥料や農薬を大量に使用すると、環境負荷が高まる可能性もあるため、持続可能な生産方法の確立が求められているでしょう。
バイオマスが持つ4つの特徴
バイオマスには、化石燃料にはない独自の特徴がいくつかあります。
ここでは、環境面や資源の性質に関する4つの主な特徴について詳しく見ていきます。
これらの特徴を理解することで、バイオマスがなぜ持続可能な社会の実現に向けて期待されているのかが分かるでしょう。
※記事では「4つの特徴」と記載していますが、見出しは3つしか指定されていません。以下は指定された3つの見出しで構成します。
カーボンニュートラルで環境にやさしい
バイオマスの最も大きな特徴は、カーボンニュートラルな性質を持つことです。
カーボンニュートラルとは、二酸化炭素の排出量と吸収量が均衡している状態を意味し、大気中の二酸化炭素濃度に影響を与えないという概念になります。
バイオマスを燃焼させると、化石燃料と同様に二酸化炭素が発生するのは事実です。
しかし、その二酸化炭素は、植物が成長する過程で光合成によって大気中から吸収したものであるため、全体で見れば新たな二酸化炭素を大気中に追加していないと考えられます。
これに対して、化石燃料は地中に長期間貯蔵されていた炭素を燃焼によって大気中に放出するため、大気中の二酸化炭素を増加させてしまうのです。
ただし、バイオマスの収集、運搬、加工の段階で化石燃料を使用すると、その分の二酸化炭素が排出されることも認識しておく必要があります。
再生可能で枯渇しない資源
バイオマスは、太陽エネルギーと水と二酸化炭素があれば、植物の光合成によって継続的に生み出される再生可能な資源です。
石油や石炭などの化石燃料は、地下から採掘すれば枯渇する有限な資源ですが、バイオマスは生命のサイクルがある限り持続的に生産することができます。
この再生可能性は、エネルギー資源の安定供給という観点から非常に重要な特徴といえるでしょう。
化石燃料の枯渇リスクや価格変動の影響を受けにくく、長期的に安定したエネルギー供給が期待できます。
また、バイオマスは地域に分散して存在するため、その地域の特性を活かしたエネルギーの地産地消も可能です。
農業や林業などの一次産業と連携することで、地域経済の活性化や雇用創出にもつながると考えられます。
再生可能エネルギーとして、バイオマスは持続可能な社会の実現に向けて欠かせない資源なのです。
地域に分散して存在する
バイオマスのもう一つの大きな特徴は、地域に広く薄く分散して存在していることです。
家畜の排泄物は畜舎で、食品廃棄物は家庭や工場で、稲わらは田畑で、林地残材は森林で、それぞれ異なる場所で発生します。
この分散性は、一面では課題となります。
バイオマスを収集して一か所に集めるには、運搬コストや労力がかかるため、大規模な集約的利用が難しい側面があるのです。
しかし、地域分散型という特性は、地域の資源を地域内で活用する「エネルギーの地産地消」を実現できるという大きなメリットにもなります。
地域で発生するバイオマスを地域内で処理し、エネルギーや製品として利用することで、地域の自立したエネルギー供給体制の構築が可能となるでしょう。
さらに、バイオマスの収集、運搬、加工、利用に関する新たな産業や雇用が地域に生まれ、農山村地域の活性化にもつながることが期待されています。
バイオマスの活用方法は大きく2種類
バイオマスの利活用方法は、大きく分けてエネルギー利用とマテリアル利用の2つに分類されます。
どちらの方法も、廃棄物の削減や環境負荷の低減に貢献しながら、新たな価値を生み出すことができるのです。
ここでは、それぞれの活用方法の特徴や具体例について見ていきましょう。
エネルギー利用による発電や燃料化
エネルギー利用とは、バイオマスを燃料として変換し、発電や熱供給、輸送用燃料などに活用する方法です。
バイオマス発電では、木質バイオマスを直接燃焼させたり、生ごみや家畜の排泄物を発酵させてメタンガスを生成し、そのガスでタービンを回して電気を作ります。
木質ペレットや木質チップなどの固形燃料は、ボイラーで燃焼させて蒸気を作り、タービンを回して発電する方式が一般的です。
また、サトウキビやトウモロコシなどを発酵・蒸留して作るバイオエタノールは、ガソリンと混合して自動車の燃料として利用されています。
なたねなどの油脂から製造されるバイオディーゼルは、軽油の代替燃料としてディーゼルエンジン車に使用することが可能です。
バイオマス発電の大きなメリットは、太陽光発電や風力発電と異なり、天候や時間帯に左右されず、安定的に電力を供給できることにあります。
ただし、燃料費が発電コストの約7割を占めるため、コスト削減が課題となっているのです。
マテリアル利用による製品化
マテリアル利用とは、バイオマスをエネルギー化するのではなく、原材料としてそのまま活用する方法を指します。
代表的なマテリアル利用として、生ごみや家畜の排泄物を堆肥化して農業用の肥料にする方法があります。
これは古くから行われてきた伝統的な利用方法で、土壌改良や作物の生育促進に役立っています。
近年注目を集めているのが、バイオマスプラスチックの製造です。
バイオマスプラスチックは、植物由来の原料から作られる再生可能なプラスチックで、トウモロコシやサトウキビなどを原料としています。
焼却する際に発生する二酸化炭素の量が、原料となる植物が光合成で吸収する量とほぼ同量となるため、石油由来のプラスチックと比べて環境負荷が低いのが特徴です。
その他にも、木材を建築資材として利用したり、バイオマスインキや紙製品の原料として活用したりするなど、マテリアル利用の範囲は多岐にわたります。
マテリアル利用は、エネルギー利用と組み合わせることで、バイオマスの価値を最大限に引き出すことができるでしょう。
バイオマス利用の課題と今後の展望
バイオマスには多くのメリットがある一方で、普及拡大に向けてはいくつかの課題も存在します。
これらの課題をどのように克服していくかが、バイオマスの将来性を左右する鍵となるでしょう。
ここでは、現在直面している主な課題と、その解決に向けた取り組みについて解説します。
コストや効率性の課題
バイオマス利用における最大の課題は、コストの高さです。
木質バイオマス発電を例にとると、発電コストの約7割を燃料費が占めており、他の再生可能エネルギーと比べても高コストとなっています。
バイオマスは地域に分散して存在するため、収集や運搬、管理に多くの費用がかかることが主な要因です。
木材を効率よく燃焼させるためには、乾燥させたり、チップやペレットに加工したりする工程も必要となり、これらの処理コストも発生します。
発電効率の面でも課題があり、バイオマス発電の効率は約20〜40%程度とされ、水力発電の約80%と比較すると低い水準にあります。
コスト削減に向けては、バイオマス資源が豊富に発生する地域に直接発電所を建設する動きや、複数の木材産業と設備を共有する取り組みなどが進められているのです。
また、小規模分散型の設備を地域内で効率的に運用する方法も模索されています。
安定供給に向けた取り組み
バイオマスの安定供給も、普及拡大に向けた大きな課題となっています。
日本では、林業や農業などの一次産業が縮小傾向にあり、国内でのバイオマス資源の確保が難しくなっているのが現状です。
木質バイオマスの場合、建材用途などで利用できなかった副次的な木材が燃料に使われることが多く、供給量の見通しが立ちにくい状況にあります。
このため、海外から木質ペレットやパーム椰子殻などの燃料を輸入する事業者も増えていますが、輸入価格の上昇や長距離輸送による環境負荷の増大が懸念されています。
安定供給に向けた取り組みとして、政府は2013年度から「バイオマス産業都市」の認定制度を開始しました。
地域のバイオマス資源を活用した産業創出と、地域循環型エネルギーの強化に取り組む自治体を支援することで、持続可能なバイオマス利用を推進しています。
また、林業の活性化や森林資源の持続的な活用に向けて、林野庁と経済産業省が連携した「地域内エコシステム」の構築も進められており、長期的な視点での安定供給体制の確立が期待されるでしょう。